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タイロウイルス

Theiloviruses
(MEV [TMEV], RTV [GD Ⅶ ])

 

分類

RNA ウイルス、エンベロープをもたない

 

Picornaviridae

 

感受性動物種

マウス、ラット(実験的には、ハムスターおよびモルモット)

 

頻度

実験動物コロニーにおいて、よくみられる。野生マウスおよびラットにおいても、よくみられる。

 

伝播経路

マウス脳炎ウイルス(murine encephalitis virus: MEV)およびラットタイロウイルス(rat theilovirus: RTV)は、糞口経路で伝播する。MEV の場合は、持続感染が成立し、ウイルスは、感染後約2 か月間にわたって排出される。RTV に関しては、現在のところ、ウイルス排出期間も含めて、ほとんどなにも わかっていない。

 

臨床症状および病変

ほとんどの場合において、タイロウイルスの自然感染は、不顕性である。タイロウイルスの強毒株のなかには、一過性のウイルス血症をひき起こした後に、致死的な脳炎を誘発するものがある。きわめてまれに、おそらく一万分の一の割合で、自然感染したマウスにおいて、中枢神経系の脱髄性病変がみられることがある。マウスにMEV を実験感染させると、脱髄性病変が誘発される。この脱髄性病変は、ポリオ、多発性硬化症、あるいは他のウイルスによってひき起こされる脱髄性病変のモデルとして利用されてきた。脱髄性病変をもつ動物においては、片側または両側後肢の弛緩性麻痺がみられる。本ウイルスは、比較的よくみられるウイルスであるが、マウスにおいてみられる後肢の麻痺は、ほとんどの場合、ウイル ス以外の原因によるものである。たとえば、脊髄におけるリンパ球浸潤である。ラットのRTV 感染においては、臨床症状や病変はみられない。ただし、例外的に、病変がみられたという報告がブラジルにおいてなされた。

 

診断

タイロウイルスの感染は、通常、血清学的検査(ELISA, IFA,MFIA®)によっておこなわれる。PCR も利用することができる。

 

実験への悪影響

MEV は、神経系、免疫系、あるいは筋骨格系の研究に悪影響を及ぼす可能性がある。RTV に関しては、ラットに対する影響についてのデータが蓄積するまでは、MEV と同様に考えるのがよいであろう。

 

予防と治療

タイロウイルスが感染していることが診断された場合は、器材や感染動物との接触を介した伝播を防ぐための措置を講じなければならない。細胞株、可移植性腫瘍、ならびにその他の生物学的製剤は、動物に接種する前に、PCR またはマウス抗体産生(MAP)試験によって検査をすべきである。野生げっ歯類は、本ウイルスの自然宿主であるので、動物実験施設へ野生げっ歯類が侵入しないようコントロールする必要がある。飼育している動物の血清学的検査を定期的に実施し、導入する動物を検疫することを推奨する。本ウイルス感染病の流行を統御するためには、タイロウイルスが環境中において、長期間にわたって安定して生存することを第一に考慮しなければならない。界面活性剤や酸化殺菌剤を併用しながら、化学薬剤を用いて除染することを推奨する。感染動物と直接接触した器材は、オートクレーブ滅菌または冷滅菌により処理をする。
感染動物については、それぞれの動物の価値ならびに当該動物を再導入することができるか否かを考慮して、適切な処置を決定する。タイロウイルスの伝播力はそれほど強くないので、免疫機能が正常な動物のコロニーにおいては、ケージ単位で検査をして、陽性ケージを排除することによって、コロニーからウイルスを排除することができるであろう。ただし、マイクロアイソレーターケージや換気式ラックを使用すべきである。抗体陽性の母親から生まれた新生子をウイルスフリーの母親動物に里子に出すことも有効な方法である。タイロウイルスを撲滅するためには、子宮摘出による再構築(クリーン化)および胚移植ともに効果的であることが示されている。文献的に、胎盤を介した垂直感染が報告されているが、実験感染においてのみ報告されている。一般的に、全個体を淘汰し、動物飼育室内すべてを徹底的に清掃、消毒し、その後、新たな動物を導入することを推奨する。タイロウイルスの伝播は、ケージにフィルターキャップをかぶせたり、スタッフの移動を少なくしたり、あるいは動物飼育管理を厳重におこなったりすることによって制限することができる。動物飼育室において業務に携わるスタッフは、ペットのげっ歯類を 飼育してはいけない。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research . Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, and Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine . 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Fox J, Barthold S, Davisson M, Newcomer C, Quimby F, and Smith A, editors. The Mouse in Biomedical Research: Diseases . 2nd ed. New York: Academic Press; 2007. 756 pp.
  • Ohsawa, K., Y. Watanabe, et al . 2003. Genetic analysis of a Theiler-like virus isolated from rats. Comp Med 53(2): 191-6.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . Ames: Iowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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