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マウスノロウイルス

Murine Norovirus
(MNV)

 

分類

RNA ウイルス、エンベロープをもたない

 

Caliciviridae

 

感受性動物種

マウス

 

頻度

現在、実験用マウスにおいて、群を抜いて、最も頻度の高いウイルスである。野生マウス集団における頻度については、わからない。

 

伝播経路

MNV の伝播経路は、糞口感染である。

 

臨床症状および病変

免疫機能が正常なマウスにおいては、臨床症状はみられない。大部分の免疫不全マウスにおいても、臨床症状はみられない。自然免疫に重篤な欠陥のあるマウスにおいてのみ、具体的には、インターフェロンのシグナル伝達経路や複数のインターフェロン受容体に欠陥のあるマウスにおいてのみ、MNV 感染によって、消耗病がひき起こされ、死亡に至ることもある。MNV 感染症は、STAT1 遺伝子に欠陥のあるマウスにおいて、初めて報告された。臨床症状としては、消耗病、下痢などがみられ、死亡に至ることもある。顕微鏡的には、感染した免疫不全マウスにおいて、肝炎、腹膜炎、あるいは間質性肺炎がみられる。免疫機能が正常なマウスにおいても、あるいは免疫不全マウスにおいても感染は持続し、ウイルスは、感染後数か月にわたって、糞便中に排出される。

 

診断

MNV 感染の診断は、PCR または血清学的検査(MFIA®, ELISA,IFA)によっておこなうことができる。MNV 感染にともなう抗体価の上昇はゆるやかな場合があるので、囮おとり動物を使用済み床敷に暴露させるときは、8 週間の暴露期間を推奨する。さらに、MNV には多くの野外株が存在し、株間の交差反応性が弱いこともある。したがって、血清学的診断を実施する場合は、すべてのMNV 株を検出することができる抗体を用いた検査法を利用することが肝要である。

 

実験への悪影響

免疫機能が正常なマウスならびに大部分の免疫不全マウスにおいて、実験への悪影響は知られていない。しかし、数は少ないものの、研究への悪影響に関する論文はある。本ウイルスは、マクロファージ系列の細胞の中で増殖する。MNV は、動物に慢性感染をひき起こすので、マクロファージ由来の細胞に関する免疫学的研究のために、MNV 感染マウスを使用するのは好ましくない。自然免疫になんらかの欠陥を有するマウスにおいては、MNV に感染した個体は、発症する。したがって、そのような感染動物を研究に使用するのは適切ではない。また、MNV に感染したマウスは、動物施設内の他のマウスへの感染源になることがある。

 

予防と治療

MNV は、最近になって報告されたマウスウイルスである。MNV がごく最近になって報告されたウイルスであること、大部分のマウスにおいては臨床症状を示さないこと、そして多くの実験用マウス集団が本ウイルスに感染していることなどを考慮すると、コロニーからMNV を撲滅するために、徹底的な方策をとることは、かならずしもベストなアプローチではない。子宮摘出または胚移植による再構築(クリーン化)は、コロニーからMNV を撲滅するための方法として有効であると考えられる。野生マウスは、MNV の自然宿主であるので、野生げっ歯類が動物実験施設に侵入しないようにコントロールしなければならない。飼育動物の血清学的検査を定期的に実施し、そして疑わしい導入動物の検疫を実施することを推奨する。
カリシウイルスは、環境中から撲滅することが困難であるという点において悪名高い(たとえば、クルーズ船におけるノーウォークウイルス)。感染動物を淘汰して、飼育室を清掃、消毒する場合においては、界面活性剤や酸化殺菌剤を併用しながら、化学薬剤を用いて徹底的に除染することを推奨する。感染動物と直接接触した器材は、オートクレーブ滅菌または冷滅菌により処理をする。

 

文献

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翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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