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マウスパルボウイルス

Mouse Parvoviruses
(MPV-1, MPV-2, MPV-3, MVM)

(訳注)現在では、MPV-4、MPV-5 も知られている。

 

分類

DNA ウイルス、エンベロープをもたない

 

Parvoviridae

 

感受性動物種

野生マウスおよび実験用マウス

 

頻度

野生マウスおよび実験用マウス両方において、よくみられる。

 

伝播経路

パルボウイルスは、感染動物の体内において持続感染しており、また環境中にも長期間生存することができるので、さまざまな種のパルボウイルスがしばしば野生マウスおよび実験用マウスに存在する。感染動物は、尿、糞便、ならびに口や鼻の分泌液の中にウイルスを排出する。したがって、尿や糞便を介した伝播経路が最も一般的である。パルボウイルスは、環境中において長期間生存することができるので、汚染された飼料、床敷、器材等への接触が主要な伝播経路となる。野生マウスや感染している実験用マウスへの接触によって、本ウイルスの流行が起こることがある。また、マウス由来の汚染された生物学的製剤によってもパルボウイルス感染症がひき起こされる。

 

臨床症状および病変

マウスパルボウイルス感染は、免疫不全動物においても、臨床症状をひき起こすことはない。マウス微小ウイルス(MVM)は、自己制限感染(self-limiting infection)を起こし、免疫機能の正常な動物においては、感染後4 週間でウイルスは存在しなくなる。MVM は、マウスパルボウイルス(MPV)にく らべて、造血細胞に対する病原性が高いようである。MPV は、組織学的病変をひき起こさない。

 

診断

マウスパルボウイルス感染の診断は、通常、MFIA®/ ELISA やIFA などの血清学的方法によっておこなわれる。種特異的な構造抗原(VP)に対する検査ならびにすべてのパルボウイルス種に共通な非構造抗原(NS)に対する検査がある。また、組織や糞便を材料としたPCR による診断も可能である。PCRのためによく使われる組織は腸間膜リンパ節であるが、脾臓、培養細胞、あるいは可移植性腫瘍を用いてPCR をおこなうこともできる。

 

実験への悪影響

マウスパルボウイルスは、さかんに分裂している細胞内でのみ増殖することができる。その結果、生物学的反応、とくに細胞の増殖がかかわる反応が修飾される。もっと一般的には、MPV-1 の感染によって、マウスの免疫機能が擾乱されるので、免疫学的研究は悪影響を受ける。マウスパルボウイルスは、腫瘍細胞親和性および腫瘍細胞溶解性を有しているので、抗腫瘍因子として研究がなされている。

 

予防と治療

生物学的製剤は、しばしばパルボウイルスによって汚染されているので、腫瘍細胞、細胞株、あるいは感染病の実験材料などは定期的に検査をする必要がある。細胞株、可移植性腫瘍、その他の生物学的製剤は、動物に接種する前に、PCR またはマウス抗体産生(MAP)試験によって検査すべきである。 野生マウスは、パルボウイルスの自然宿主であるので、野生げっ歯類が動物実験施設に侵入しないようにコントロールすることは、最重要課題である。飼育動物の血清学的検査を定期的に実施し、そして導入動物の検疫を実施することを推奨する。パルボウイルスが感染していると診断された場合は、器材や動物との接触を介したウイルス拡散を防ぐための対策をとらなければならない。対策について考慮するときは、パルボウイルスが環境中において、安定して長期間生存するということに最も留意しなければならない。界面活性剤や酸化殺菌剤を併用しながら、化学薬剤を用いて徹底的に除染することを推奨する。感染動物と直接接触した器材は、オートクレーブ滅菌または冷滅菌により処理をする。パルボウイルスの感染性は、80℃ 2 時間の熱処理後でも保たれているし、40℃においては、パルボウイルスは、少なくとも60 日間は感染性を保っている。さらにパルボウイルスは、乾燥に強く、pH2 ~ 11に耐え、そしてクロロホルム、エーテル、およびアルコールにも抵抗性である。
感染動物の処分については、当該動物の価値、ならびに新たに同系統の動物を導入することができるか否かによって、最善の方策を決定する。一般的には、全個体を淘汰し、動物飼育室内すべてを徹底的に清掃、消毒し、その後、新たな動物を導入することを推奨する。コロニーがパルボウイルスによって汚染された場合は、子宮摘出による再構築(クリーン化)および胚移植ともに効果的であることが示されているので、可能なかぎり、コロニーを再構築(クリーン化)すべきである。パルボウイルスの伝播は、ケージにフィルターキャップをかぶせたり、スタッフの出入りを制限したり、あるいは厳密に飼育管理をおこなったりすることによって、最小限にすることができる。パルボウイルスは、換気装置の中に見られるほこりやごみの中で長期間生存することができるので、動物飼育室や実験区域を清掃するときは、このことに注意しなければならない。動物実験施設で業務に携わるスタッフは、ペットのげっ歯類を飼ってはいけない。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research . Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, and Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine . 2nd ed. San Diego: Academic Press;2002. 1325 pp.
  • Fox J, Barthold S, Davisson M, Newcomer C, Quimby F, and Smith A, editors. The Mouse in Biomedical Research: Diseases . 2nd ed. New York: Academic Press; 2007. 756 pp.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . Ames: Iowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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