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唾液腺涙腺炎ウイルス

Sialodacryoadenitis Virus
(RCV, SDAV)

 

分類

RNA ウイルス、エンベロープをもつ

 

Coronaviridae

 

感受性動物種

ラット

 

頻度

現在の動物実験施設においては、あまりみられない。ペットのラットにおいては、よくみられる。野生のラット集団における頻度は不明である。

 

伝播経路

唾液腺涙腺炎ウイルス(SDAV)は、エアロゾルあるいは感染動物の鼻汁または唾液との接触を介して伝播する。本ウイルスの感染性はきわめて高い。免疫機能が正常な宿主においては、本ウイルスの持続感染は起こらない。

 

臨床症状および病変

SDAV が初感染すると、ほとんどのラットにおいて、感染後数日以内に臨床症状がみられる。SDAV は、漿液腺または粘液漿液腺の管状胞状腺組織に指向性をもつ。したがって、SDAV に感染すると、涙腺、唾液腺、あるいはハーダー腺が障害を受ける。SDAV が流行しているコロニーの動物においては、鼻をすする音、くしゃみ、羞明、紅涙、あるいは顎下腺の腫脹などの症状がみられる。有病率は高いが、死亡率は低い。潜伏型の感染を起こしている動物においては、臨床症状はみられないか、あってもきわめて軽微である。SDAV 感染の続発症としては、巨大眼球、角膜潰瘍、涙腺の障害に続発する前房出血などがみられる。歴史的にラットコロナウイルス(RCV)とよばれる他のウイルス株は、呼吸器に対する指向性を有しており、鼻から肺に至る気道の炎症―通常は軽微である―をひき起こす。免疫不全ラットにおいては、持続感染が成立し、重篤な臨床症状がみられ、ときには致死的となる。

 

診断

SDAV が潜伏感染している場合は、通常、血清学的検査(ELISA, IFA, MFIA®)によって診断がおこなわれる。SDAVが流行しているコロニーの動物においては、感染後1 週間以内は、特徴的な臨床症状と病理組織学的検査によって診断することができる。感染後7 ~ 10 日目以降は、血清学的検査によって診断することができる。急性期のラットにおいては、唾液腺組織や涙腺組織を材料としたPCR も利用することができる。

 

実験への悪影響

SDAV に初感染した動物は発病するので、実験の目的には不適切である。一般的に、感染動物においては、摂餌量が低下し、体重も減少する。SDAV はまた、繁殖成績にも影響を及ぼすことがある。たとえば、分娩前および分娩後の子動物の死亡率が上昇することがある。感染後には、涙の量が減少することによって、眼が障害を受けることがある。SDAV の活動性感染においては、麻酔による死亡率が上昇することがある。

 

予防と治療

SDAV の感染を防ぐためには、動物実験施設における、動物、器材、ならびに人間の動線を厳格にコントロールすることが有用である。飼育動物の血清学的検査を定期的に実施し、そして、疑わしい導入動物については、検疫を実施することを推奨する。
動物実験施設において、SDAV の感染が検出された場合は、一般的には、コロニーの全個体を淘汰し、動物飼育室を徹底的に清掃し、そして、動物を再導入することを推奨する。SDAV は、エンベロープをもつウイルスであるので、環境中においては、数日間以上にわたって感染性を維持することはないであろう。本ウイルスは、界面活性剤、消毒薬、乾燥、ならびにエタノールに対して感受性である。感染動物を維持しなければならない場合においては、不必要な動物はすべて安楽死処置し、コロニーの再構築(クリーン化)が完了するまでは、厳格な隔離飼育(陰圧アイソレーターがよい)を実施すべきである。コロニーを再構築(クリーン化)するためには、子宮摘出または胚移植を推奨する。免疫機能が正常なラットにおいては、繁殖を停止して、意図的に感染を拡散させる「バーンアウト(燃え尽き)」も有効であることが示されている。「バーンアウト」の過程においては、コロニー内のすべてのラットが感染し、時間の経過にともなって、すべてのラットの体内からウイルスが排除される。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research . Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, and Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine . 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . Ames: Iowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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