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センダイウイルス

Sendai Virus
(PI-1, SV ※ )
※(訳注)日本ではHVJ(Hemagglutinating Virus of Japan)の呼称がよく使われる。

 

分類

RNA ウイルス、エンベロープをもつ

 

Paramyxoviridae

注:パラインフルエンザウイルスは、3 つの亜群に分かれる。すなわち、PI-1、PI-2、およびPI-3 である。センダイウイルスは、PI-1 のひとつであるが、PI-1 には、センダイウイルス以外の群も含まれている。

 

感受性動物種

マウス、ラット、ハムスター、およびモルモットは、血清学的に陽性を示すことが報告されている。すなわち、これらの動物種は、一般的に血清学的診断に使われるセンダイウイルス抗原と反応する抗体を産生する。モルモットやその他のげっ歯類がほんとうにセンダイウイルスに感受性であるか否かについては、意見が分かれている。

 

頻度

現在の動物実験施設においては、きわめてまれである。ペットや野生のマウスおよびラットにおいては、よくみられる。

 

伝播経路

センダイウイルス(SV)は、エアロゾルあるいは呼吸器分泌物との接触を介して伝播する。しかし、汚染床敷を介した伝搬は、ほとんど起こらない。本ウイルスの伝染力は、きわめて高い。しかし、免疫機能が正常な動物においては、本ウイルスは持続感染することはない。

 

臨床症状および病変

SV は、免疫機能が正常なげっ歯類において、臨床症状をひき起こすことができる数少ないウイルスのひとつである。マウスにおいてみられる臨床症状は、肺炎の症状である。たとえば、呼吸困難、ガチガチいう歯の音、あるいは幼若動物の死亡などである。剖検においては、肺における硬化(濃いコンソリデーション)巣がみられることがある。顕微鏡的病変は、肺の感染の重篤度や感染にともなう免疫応答によってさまざまである。SV は粘膜線毛上皮に感染し、その上皮の病変は、数週間にわたって持続することがある。その結果、感染動物
は、二次感染を起こしやすくなる。肺胞腔内には、白血球、フィブリン、あるいは壊死産物である細胞の断片などが見られる。気道上皮には、合胞体(シンシチウム)や好酸性の細胞質内封入体が見られることがある。免疫不全動物においては、肺のコンソリデーション(硬化)にともなう消耗病がみられることがある。
ラットにおいては、一般的に、SV 感染は不顕性である。しかし、感染ラットにおいては、繁殖障害が起こったり、あるいは、組織学的病変として、鼻炎、気管支炎、細気管支炎などがみられたりすることがある。
重篤な病変を起こすか否かについては、系統差がみられる。たとえば、DBA/2 マウスやBrown Norway ラットは、きわめて感受性が高く、他方、C57BL/6 マウスやF344 ラットは、抵抗性である。
モルモットやハムスターも、SV 抗原を用いた血清検査において、ときおり陽性を示す。しかし、これらの動物種におけるSV 感染の重要度は不明である。

 

診断

マウスやラットにおけるSV 感染の診断のためには、通常、SV 抗原を用いた血清学的検査(ELISA, IFA, MFIA®)がおこなわれる。抗体価は急速に上昇するので、感染後8-12 日目には血清学的診断が可能になる。PCR による診断も可能である。PCR は、症状を示している動物の診断のために推奨される。なぜなら、そのような動物は、おそらく、まだ充分に抗体を産生していないからである。コロニー内のマウスにおいて、突然、肺炎の臨床症状―呼吸困難、ガチガチいう歯の音など―を示す動物が多く見られるようになった場合は、SV に感染していることを疑うべきである。SV 感染に関連した組織病変は特徴的であるので、確定診断の助けになる。
ラット、モルモット、ならびにマウス、ラット以外のげっ歯類においては、SV 抗原を用いた血清学的検査が陽性であっても、PI-2 群のウイルスまたはPI-3 群のウイルスの感染による場合も考えられる。MFIA®、ELISA、またはIFA において陽性であった場合においても、ウイルス株特異的なHAI によって確認をしなければならない。HAI によって、PI-1、PI-2、およびPI-3 を鑑別することができる。さらに、モルモットにおいて、PI-1 抗体の陽転がSV 感染によるものであることを決
定するためには、囮マウス(SV に対しては感受性であるが、その他のPI-1 群ウイルスに対しては感受性をもたない)を利用したり、あるいはPCR で増幅した核酸の塩基配列を調べたりすることもできる。このことは、モルモットが、ヒトによって媒介されるパラインフルエンザウイルス感染に感受性であることを考慮すると、とくに重要である。

 

実験への悪影響

肺の病変に加えて、SV は、不妊をひき起こしたり、あるいは二次的な細菌感染を起こしやすくさせたりすることがある。さらに、感受性系統においては、動物を死に至らしめることもある。SV に感染した動物は、研究の目的には適していない。

 

予防と治療

野生やペットのマウスおよびラットは、SV の自然宿主であるので、野生げっ歯類が動物実験施設に侵入しないようにコントロールしなければならない。飼育動物の血清学的検査を定期的に実施し、そして、疑わしい導入動物については、検疫を実施することを推奨する。本ウイルス感染の発生はきわめてまれであるので、血清学的検査の頻度は、低くてもよいであろう。動物由来の生物学的製剤は、SV によって汚染されていることがあるので、細胞株、可移植性腫瘍、ならびにその他の生物学的製剤は、動物に接種する前に、PCR またはマウス抗体産生(MAP)試験によって検査をすべきである。感染動物の処置は、当該動物の価値、ならびに同系統の動物を再導入することができるか否 かによって決定する。ヒトが感染 源となって、センダイウイルス以外のパラインフルエンザウイルスに実験用げっ歯類が感染することはしばしば起こる。
本ウイルスは、環境中においては脆弱であるので、環境を消毒するための特別な措置は不要である。しかし、SV の伝染力は高いので、本ウイルスの拡散を防止するためには、きわめて厳格な措置が必要である。一般的には、コロニーの全個体を淘汰し、動物飼育室を徹底的に清掃し、そして、動物を再導入することを推奨する。コロニーからSV を撲滅するためには、子宮摘出による再構築(クリーン化)および胚移植ともに有効であることが示されている。免疫機能が正常な動物においては、繁殖を停止して、意図的に感染を拡散させる「バーンアウト(燃え尽き)」も有効であるが、一般的には勧められない。SV の伝播は、ケージにフィルターキャップをかぶせたり、スタッフの移動を減少させたり、あるいは厳格な 飼育管理を実施したりすることによって制限することができる。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research . Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, and Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine . 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Fox J, Barthold S, Davisson M, Newcomer C, Quimby F, and Smith A, editors. The Mouse in Biomedical Research: Diseases . 2nd ed. New York: Academic Press; 2007. 756 pp.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . Ames: Iowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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