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マウスチャップパルボウイルス

Murine Chapparvovirus( MuCPV)

(別称)マウス腎臓パルボウイルス

Mouse Kidney Parvovirus( MKPV)

 

分類

一本鎖DNA ウイルス、エンベロープをもたない

 

Parvoviridae

 

ICTV1 によって、暫定的にチャップパルボウイルス(Chapparvovirus) と名付けられている。Protoparvovirus 属(MVM、MPV)とは、遺伝的および抗原的に区別される。

 

感受性動物種

野生マウスおよび実験用マウス。

 

頻度

野生マウスおよび実験用マウスにおいて、中等度の頻度である2-4

 

伝播経路

MuCPV は、糞便および尿を介して伝播するようである2

 

臨床症状および病変

MuCPV が感染すると、宿主の免疫状態に応じて、さまざまな発現率で腎尿細管上皮細胞に核内封入体が形成される2。マウスにおける腎尿細管上皮細胞核内封入体(封入体腎症:IBN)は、40 年以上にわたって、獣医病理学者たちによって、逸話的に観察されていた2,5。腎尿細管上皮細胞核内封入体の発現は、免疫機能が正常なマウスおよび免疫不全マウスの両者において低かったと報告されている6,7。臨床的な疾病は、免疫不全モデルにおいてのみ報告されている2
成体の免疫不全マウスは、慢性の腎疾患を発症することがあり、腎臓は萎縮し、青白色を帯び、表面が窪む。免疫不全マウスに感染すると、免疫機能障害の程度に応じて、さまざまな症状がみられる。たとえば、中等度のIBN から核内封入体、尿細管の変性、壊死に至るまでさまざまである。また感染症は、さらに腎線維症をともなう慢性腎不全に進行することもある。免疫機能の障害が限定的な胸腺欠損ヌードマウスにおいては、中等度の無症状のIBN が報告されている。重度免疫不全モデルであるRag-/- マウス、SCID-/- マウス、あるいはNSG マウスなどにおいては、MuCPV のウイルスDNA が増加するのにともなって、最も重篤な病変がみられ、マウスは腎不全をきたす2

 

診断

MuCPV の診断は、通常、腎臓、糞便、あるいは環境中のサンプルを用いたPCR によっておこなわれる。感染や病気の進行に関する文献は限られているが、その中で感染の検出が遅くなる傾向にあることが示されている。本ウイルスが蔓延しているコロニーにおいて、腎臓における持続感染は61 日齢まで確認された一方、明確なウイルス血症の検出は100 日齢まで遅延した2
さらに、野生マウスの調査によって、MuCPV の感染率は、加齢にともなって上昇することが示された。成体マウスの感染率が62% であったのに対して、幼若マウスの感染率はわずか5% であった3
経験的には、MuCPV を検出するためのPCR のサンプルとして適切なものは、開放型ケージを使用している飼育室の環境サンプルもしくは適切なラックの排気ダスト(Exhaust AirDust = EAD®)、または糞便もしくは腎臓などである。PCR は、成体の繁殖用マウスから得られたサンプル中のウイルスを検出するための確実な方法である。また、免疫不全マウスの尿を使って、PCR 検査をおこなうことも可能であろう。廃床敷を用いた若い囮動物では、確実にウイルスを検出することはできないであろう。
MuCPV は、これまで知られているマウスパルボウイルス属(Protoparvovirus 属)からは大きく分岐している。マウスパルボウイルス(MPV)およびマウス微小ウイルス(MVM)を検出するために現在使用されている血清学的検査やPCR 検査は、MuCPV の検出のためには使うことができない2,8
現在までのところ、MuCPV に特異的な血清学的検査は、報告されていない。

 

実験への悪影響

パルボウイルスは、細胞内で複製して、盛んに増殖する。したがって、細胞内にウイルスが存在すると、細胞の生理機能が修飾される。マウスパルボウイルス-1(MPV-1)が感染すると、マウスの免疫機能が変化することが示されている。しかし、これまで同定されている齧歯類のパルボウイルス(たとえば、MPV-1)は、臨床的な疾病をひき起こさない。MuCPVの感染による悪影響については、未だ充分に解明されていない。免疫機能が正常なマウスにおいては、MuCPV の感染による腎尿細管上皮細胞の病変はほとんどみられないが、重度免疫不全モデルにおいては、慢性腎不全、その他の臨床的疾病、あるいは死亡動物がみられることがある1-3

 

予防と治療

MuCPV は、新たに同定されたウイルスであるので、その病理生物学については、未だ充分に解明されていない。これまでに知られているマウスパルボウイルス(たとえば、MPV)は、細胞株、可移植性腫瘍、血液製剤のような生物学的材料を介して伝播する。したがって、これらの生物学的材料は、事前にPCR 検査をすべきである。MuCPV は最近同定されたウイルスであるので、生物学的材料を介してウイルスが伝播するか否かについては、未だ充分に解明されていない。野生マウスは、MuCPV の保有動物の役割を果しているので、野生齧歯類がマウスコロニーや資材に接触しないようにすべきである3。 一般的に、パルボウイルスは、環境中において安定して生存する。したがって、パルボウイルスを排除するためには、共通の設備・備品、資材、ならびに表面を対象にしなければならない。動物施設内において、パルボウイルスの拡散を制限するためには、マイクロアイソレーター、ならびに厳密な無菌的飼育管理および実験処置をおこなうことがきわめて重要である。界面活性剤や酸化殺菌剤を併用しながら、化学薬剤を用いて徹底的に除染することを推奨する。感染動物と直接接触した器材は、オートクレーブ滅菌または冷滅菌により処理をするとよい。 感染動物が見つかったときの対応は、当該動物の有用性(価値)、新たな動物と入れ換えることができるか否か、実験の目的・内容、ならびに将来感染していない動物を維持することができるか否かによって決まる。実験コロニーからウイルスを排除することが必要な場合は、動物を淘汰し、動物室のすべての箇所の徹底的な清掃および消毒をおこなった後に、新たな動物を再導入することを推奨する。胚移植による再構築(クリーン化)が報告されている2。感染しているマウス系統からMuCPV を除去するために、子宮摘出による再構築(クリーン化)が有効であったという逸話的な証拠が示されている。

 

文献

  • https://talk.ictvonline.org/ictv-reports/ictv_online_report/ssdna-viruses/w/parvoviridae
  • Ben Roediger et al An Atypical Parvovirus Drives Chronic Tubulointerstitial Nephropathy and Kidney Fibrosis . 2018, Cell 175, 1-14, October 4, 2018.
  • Simon H. Williams, Xiaoyu Che, Joel A. Garcia, John D. Klena, Bohyun Lee, Dorothy Muller, Werner Ulrich, Robert M. Corrigan, Stuart Nichol, Komal Jain, W. Ian Lipkin. Viral Diversity of House Mice in New York City . American Society for Microbiology, March/April 2018, Vol.9, Issue 2.
  • Tung G. Phan, Beatrix Kapusinszky, Chunlin Wang, Robert K. Rose, Howard L. Lipton, Eric L. Delwart The Fecal Viral Flora of Wild Rodents . PLOS Pathogens, September 2011, Vol. 7, Issue 9.
  • Barthold, S.W., Percy, D.H., and Griffey, S.M. (2016). Pathology of laboratory rodents and rabbits , Fourth Edition (John Wiley & Sons).
  • Elizabeth McInnes, Mark Bennett, Mandy O’Hara, Lorna Rasmussen, Peony Fung, Philip Nicholls, Michael Slaven and Robert Stevenson. Intranuclear Inclusions in Renal Tubular Epithelium in Immunodeficient Mice Stain with Antibodies for Bovine Papillomavirus Type 1 L1 Protein . Vet. Sci. 2015, 2, 84- 96.
  • Baze, W.B., Steinbach, T.J., Fleetwood, M.L., Blanchard, T.W., Barnhart, K.F., and McArthur, M.J. (2006). Karyomegaly and intranuclear inclusions in the renal tubules of sentinel ICR mice (mus musculus) . Comp. Med. 56, 435-438.
  • https://www.criver.com/sites/default/files/resources/MouseParvovirusesTechnicalSheet.pdf

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2019, Charles River Laboratories International, Inc.

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