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パスツレラ・ムルトシダ

Pasteurella multocida

 

分類

細菌、小型、グラム陰性桿菌、両端染色性

 

Pasteurellaceae
大きな細菌群― Pasteurella-Haemophilus-Actinobacillus 群―の一部。この群の細菌の分類は複雑であり、未だ不完全である。さらに、この群に属するすべての細菌が生化学的方法によって簡単に同定することができるわけではない。

 

感受性動物種

大部分の哺乳類は、本菌の保有動物になり得る。実験動物のなかでは、臨床的には、ウサギが最も重篤な症状を示す。本菌は、ヒトにも感染する。

 

頻度

よく管理されたウサギコロニーにおいてはあまりみられないが、散発的な流行が起こることがある。ペットのウサギ、イヌ、ネコ、あるいは家畜は本菌を保有していることが多い。 実験用ラットやマウスにおける本菌の感染はまれである。ときおり、ラットやマウスにおいて、本菌が分離されたという新たな報告がみられるが、われわれの経験では、これらの報告は、その後、誤りであることがわかっている。それらの報告のうち10 件においては、実験用齧歯類から得られたサンプルは、おもにペット動物や家畜の疾病を診断する研究室において処理されていた。

 

伝播経路

本菌は、直接接触、エアロゾル、器具・器材などを介して、ウサギからウサギへと伝播する。膣において本菌に感染することがあるので、出産に際して、新生仔が感染することがある。あるいは、感染している母親ウサギから、直接接触によって、子ウサギが感染することもある。

 

臨床症状および病変

ウサギにおいては、本菌に感染していても、臨床症状を示さないことがある。本菌は、通常、鼻咽頭に定着している。多くの要因によって、保菌状態から活動的な感染に移行し得る。活動的な感染への移行のしやすさは、妊娠、遺伝子組成、栄養、飼育管理、あるいはストレスの影響を受ける。本菌の感染形態には、急性、亜急性、あるいは慢性がある。実験用ウサギにおけるパスツレラ感染症の臨床症状について 調べると、よくみられる症状として、鼻炎、結膜炎、膿瘍、中耳炎などが報告されている。敗血症、気管支肺炎、生殖器感染、関節炎、骨髄炎、涙腺炎などがみられることもある。その他、カテーテル挿入部位における皮膚の感染も起こり得る。 ウサギにおける典型的な症状は、カタル性または粘液性膿性の鼻汁である。鼻汁は、外鼻孔では見えないこともあり、多くの場合、外鼻孔や前肢先端部の被毛の汚れが見られるのみである。上記標的器官において見られる病変は、一般的に、剖検時において、化膿性と分類される。

 

診断

本菌は、培養、PCR、または血清反応によって診断することができる。意識のあるウサギの鼻咽頭からサンプルを採取することは困難である。また保菌動物は、中耳や副鼻腔に本菌を保有しているので、培養の結果が陰性になる場合がある。血清学的検査も可能であるが、活動的な感染を診断することはできない。さらに、パスツレラ属菌の抗原性は複雑であり、また多くのパスツレラ属菌の分類学上の位置も未解明であるので、パスツレラ属菌の血清学的検査は、ウイルスの血清学的検査にくらべて、偽陽性の結果を生じやすい。血清学的検査が陽性になった場合は、次の行動をとる前に、その検査結果を確認しなければならない。

 

実験への悪影響

本菌の感染は、さまざまな研究に悪影響を及ぼす可能性がある。一般的に、本菌の保有動物は、研究に使用するのには適していない。本菌に感染している動物は臨床的に病気である可能性があるので、研究に使用するのは不適切である。本菌は、宿主体内において広く分布しており、多くの器官系に影響を及ぼす。本菌を保有する動物に日常的な実験処置を施すと、臨床的な病気を発症したり、予期しない死亡がもたらされたりすることがある。本菌に感染したウサギに対する影響に関しては、その他の報告はなされていないものの、鳥類やブタにおいてなされた研究にもとづけば、その他の影響はまちがいなく存在する。

 

予防と治療

パスツレラ・ムルトシダの感染を防ぐためには、動物施設から保菌動物を排除しなければならない。この観点からは、導入動物の検疫またはクリーン化がとくに重要である。また、ペット動物を動物施設に入れないことも重要である。パスツレラ・ムルトシダは、脆弱な細菌であるので、宿主の体外では長期間にわって生存することはできない(室温においては、輸送用培地の中で24 時間以下)。治療は可能である。しかし、とくに本菌の定着部位を考慮すれば、抗生物質で治療しても、宿主の保菌状態を解消するこ とはできないであろう。パスツレラ・ムルトシダ感染コロニーをクリーン化するためには、胚移植または子宮摘出による再構築を利用することができるであろう。環境中においては、パスツレラ・ムルトシダは脆弱な細菌であるので、環境を厳格に除染する必要はない。定期的に清掃し、高性能な消毒剤を用いることによって、環境中からパスツレラ・ムルトシダを充分に除去することができる。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research. Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine. 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Harcourt-Brown, F. Textbook of Rabbit Medicine. Oxford: Butterworth Heinemann; 2002. 410 pp.
  • Harper, M., J.D. Boyce, and B. Adler, Pasteurella multocida pathogenesis:125 years after Pasteur . FEMS Microbiology Letters, 2006. 265(1): 1-10 pp.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . Ames:Iowa State University Press; 2007. 325 pp.
  • Thomson, C.M., N. Chanter, and C.M. Wathes, Survival of toxigenic Pasteurella multocida in aerosols and aqueous liquids . Applied and Environmental Microbiology, 1992. 58(3): 932-6 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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