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ストレプトバチルス・モニリホルミス

Streptobacillus moniliformis

(ハーバーヒル熱、鼠咬熱)

 

 

分類

細菌、グラム陰性、多形性桿菌またはフィラメント状桿菌

 

Fusobacterium

 

感受性動物種

マウスは臨床症状を発現する。ラットは本菌を鼻咽頭に保有するが、症状を示さない。スナネズミおよびモルモットにも感染する。本菌は人獣共通感染性であり、表題のハーバーヒル熱および鼠咬熱は、ヒトにおける疾患名である。

 

頻度

野生ラットおよびペットのラットおいては、よくみられる。実験用ラット、実験用マウス、ならびに野生マウスにおいては、まれである。

 

伝播経路

本菌は、通常、咬傷によって、ラットの唾液を介して伝播する。また、眼や鼻の分泌物によっても伝播することがある。

 

臨床症状および病変

ラットにおいては、一般的に臨床症状はみられない。まれに、肺における日和見感染や膿瘍がみられる。
マウスにおいては、系統によって、感受性に差がみられる。C57BL/6 マウスおよびアウトブレッドのスイスマウスは、きわめて感受性が高い。DBA/2 マウスは中等度の感受性、そしてBALB/c マウスおよびC3H/He マウスは抵抗性である。感染マウスは、敗血症のために突然死亡することがある。敗血症は、さらに長期にわたる経過をとる場合もある。典型的な臨床症状には、頸部のリンパ節炎、下痢、結膜炎、チアノーゼ、血色素尿症、体重減少などが含まれる。動物が急性期を耐過すると、化膿性多発性関節炎、骨髄炎、膿瘍などがみられることがある。剖検においては、肝臓および脾臓において広範囲にわたる炎症や壊死巣がみられることがある。漿膜表面には、点状出血や斑状出血がみられることもある。腎病変は、敗血症によって二次的にひき起こされたものであり、通常、間質性腎炎がみられ、しばしば複数の細菌コロニーが認められる。
ヒトにおいては、さまざまな臨床症状がみられる。たとえば、発熱、発疹、多発性関節炎、心内膜炎などである。本菌によるヒトの感染症(鼠咬熱)は、致死的になることがある。野生ラットまたはペットのラットに咬まれたときは、医師の診察を受け、ただちに治療するべきである。

 

診断

本菌は、感染したラットまたはマウスの鼻咽頭サンプルを使って、血液寒天培地で培養することができる。血清学的診断およびPCR も利用することができる。

 

実験への悪影響

保菌ラットは、健康であるものの、本菌はヒトへ感染するおそれがあるので、研究に使用することは不適切である。感染マウスは、一般的に臨床症状を示すので、研究の目的には適していない。

 

予防と治療

本菌は、感染動物と直接接触することによって伝播するので、動物施設から感染動物を排除することが重要である。野生ラットおよびペットのラットはすべて、実験用齧歯類の区域から排除しなければならない。専門業者以外から導入する動物は、検疫をして、本菌を保有していないことを調べるべきである。実験用齧歯類を扱う業務をしている者は、ペットのラットを飼ったり、あるいは野生ラットを扱う仕事をしたりしてはならない。
マウスにおいては、(胎生致死をともなう)垂直感染が報告されているものの、子宮摘出や胚移植は、保菌動物から本菌を除去するのに有効であるようだ。本菌は芽胞を形成せず、また環境中にはほとんど残留しないと考えられているので、通常の環境消毒法によって、環境中から本菌を除去することができる。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research . Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine. 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Fox J, Barthold S, Davisson M, Newcomer C, Quimby F, and Smith A, editors. The Mouse in Biomedical Research: Diseases . 2nd ed. New York: Academic Press; 2007. 756 pp.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . Ames: Iowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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