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乳酸脱水素酵素(上昇)ウイルス

LDV, LDHV

 

分類

RNA ウイルス、エンベロープをもつ

 

Arteriviridae

 

感受性動物種

マウス

 

頻度

実験用マウスにおいては低い。野生マウスにおいては、よくみられる。

 

伝播経路

おもに、実験室の環境において、感染している腫瘍、細胞株、ならびにマウス由来のその他の生物材料を介して伝播する。通常、自然感染は、咬傷または交尾を介して起こる。また、このウイルスは、胎盤や母乳を介して伝播することもある。胎盤や母乳を介した感染経路は、臨床的には、感染後1 週間以内においてのみ重要である。なぜなら、その期間に、ウイルスが胎盤や母乳を通して排出されるからである。感染後、動物は持続してウイルス血症を示す。

 

臨床症状および病変

おもな臨床症状は、肝臓(ならびに心臓および赤血球)が産生する酵素である乳酸脱水素酵素の血清中濃度が上昇することである。感受性系統のいくつか(AKR およびC58)においては、加齢、化学物質、または免疫系の機能不全による免疫抑制がみられるときは、感染動物が麻痺症状を示すことがある。この麻痺は、乳酸脱水素酵素(上昇)ウイルス(LDV)が宿主マウスに存在するエコトロピック(同種指向性)マウス白血病ウイルスと相互作用する結果としてひき起こされる。

 

診断

血清学的診断は、推奨することができない。感染マウスにおいては、抗原抗体複合体が存在するので、偽陰性になることがあるからである。LDV 感染においては、血清中の乳酸脱水素酵素濃度の測定と同様に、PCR は有用な診断方法である。SPF 動物においては、血清中の乳酸脱水素酵素濃度は、ウイルス感染後24 時間以内に上昇し、72 ~ 96 時間で正常動物の8 ~ 11 倍に達する。その後、感染動物の生涯にわたって、高い濃度を維持する。したがって、血清中のLDH 濃度の測定は、よいスクリーニング法である。しかし、偽陽性になることもあるので(たとえば、肝疾患、心疾患、または赤血球の溶解など他の原因によって、血清中のLDH 濃度が上昇することがある)、PCR 法を用いて確認すべきである。

 

実験への悪影響

マウスにLDV が感染すると、臨床症状がなくても、多くの組織の機能に大きな変化がもたらされることがある。LDVは、マクロファージのサブセットのなかで増殖するので、免疫学的研究への多くの影響が知られている。たとえば(これだけにかぎらないが)、細胞性免疫能の低下、サイトカイン活性の増大、液性免疫能の変化、腫瘍の増殖に対する影響、混合感染している病原体に対する免疫応答の変化、高ガンマグロブリン血症、自己抗体の産生などである。さらに、マウスの系統によっては、糸球体腎炎および(または)中枢神経系疾患も起こる。

 

予防と治療

LDV は、おもに実験室において、腫瘍株、細胞株、ならびにマウス由来の生物材料を介して伝播するので、それらを動物に導入する前に、マウス抗体産生(MAP)試験またはPCR によって調べるべきである。LDV は、腫瘍株をヌードラットにおいて継代培養することによって、除去することができる。 LDV は、マウスにおいて持続感染するので、一般的には、感染コロニーを排除することが推奨される。しかし、長期にわたる感染の場合には、胚移植や子宮摘出によって再構築(クリーン化)することも可能であろう。なぜなら、垂直感染のリスクは、感染後1 週の間、または初感染時において妊娠したときに最も高いからである。胚移植や子宮摘出によって感染を除去しようとするときは、再構築(クリーン化)した動物をPCR で調べて、本ウイルスに感染していないことを確かめるべきである。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research . Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, and Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine . 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Fox J, Barthold S, Davisson M, Newcomer C, Quimby F, and Smith A, editors. The Mouse in Biomedical Research: Diseases . 2nd ed. New York: Academic Press; 2007. 756 pp.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . Ames: lowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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