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コリネバクテリウム・ボビス

Corynebacterium bovis

 

分類

細菌、グラム陽性、桿菌、菌体の一端は他端より幅が広い

 

Corynebacteriaceae

 

感受性動物種

マウスおよびラット、ヌード、ヘアレス、SCID 動物

 

頻度

研究施設によっては、よくみられる。野生齧歯類が本菌を保有しているか否かは不明である。

 

伝播経路

本菌は、直接接触または飼養者の手袋など器具器材を介して、動物から動物へと伝播する。また本菌は、可移植性の腫瘍細胞株を介して伝播することもある。
まれに、免疫機能の正常な動物が本菌の無症候性保菌動物になることもあるが、一般的に、免疫機能の正常な動物における感染は一過性である。

 

臨床症状および病変

ヌードマウスまたはSCID マウスにおける本菌の感染に関連する臨床症状として、広範囲にわたる鱗状の皮膚炎がみられる。これは、「鱗屑性皮膚病」とよばれる。ヌードマウスにおいては、この症状は背部において最もよくみられる。SCID マウスにおいては、鱗屑性皮膚炎の部位に脱毛がみられる。
顕微鏡的には、皮膚の切片において、表皮の過形成(アカントーシス)および正常角化性角化亢進がみられる。真皮には、マクロファージや好中球が浸潤する。
本菌は、初感染動物においては、急速に臨床症状を発現させる。本菌への暴露(たとえば、感染動物や汚染された施設への暴露)後7 ~ 10 日で発現する病変は、通常、新たな感染に特徴的なものである。
動物が感染を耐過すると(たいていの動物は耐過する)、角化亢進は消失するものの、アカントーシスは残る。また、真皮おける炎症性細胞も若干増加したままである。臨床症状が消失しても、動物は感染したままであり、本菌を排出しつづける。
本菌が蔓延しているコロニーの中の動物には本菌が持続感染しているものの、初感染の動物にくらべると、臨床症状を示すことは少ない。

 

診断

本菌は、感染動物の皮膚(推奨部位)、糞便、中咽頭または汚染環境から培養することができる。
腫瘍細胞株、環境スワブ、または感染動物に関しては、PCR 検査も可能である。

 

実験への悪影響

本菌が感染すると、体重減少がみられることがある。その理由は、おそらく、皮膚病変にともなう脱水、摂餌量減少、あるいは掻痒によるものであろう。また、可移植性腫瘍の生着率が低下することもある。本菌に感染している動物を研究のために使用するのは不適切である。

 

予防と治療

ヌード、ヘアレス、およびSCID 動物に関しては、本菌のための微生物モニタリングを定期的に実施すべきである。動物は、定期的に検査をされているコロニーから入手すべきである。無菌的な子宮摘出後に清浄な雌動物に里子に出すことによって、または胚移植による再構築(クリーン化)によって、汚染コロニーから本菌を排除することができるであろう。抗生剤によって感染動物を処置することによって、再構築(クリーン化)するまで、または新たな動物を搬入するまでの間、臨床症状を軽減することも可能であろう。本菌の分離株は、テトラサイクリン、エンロフロキサシン、およびアンピシリンに感受性であることが示されている。
本菌は、環境中において、長期間にわたって生存する。なぜなら、本菌は脂肪親和性があり、皮膚片やその他の有機物の上で充分に生存することができるからである。施設から本菌を除去するための方法として、器材をオートクレーブで徹底的に滅菌すること、滅菌することができない器材を廃棄すること、あるいは二酸化塩素殺菌などが報告されている。環境を殺菌する場合は、PCR または培養によって、その効果を調べなければならない。施設によっては、汚染区域を閉鎖して、新たな区域で動物を飼育することが唯一の除菌方法であったことも報告されている。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research . Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Clifford CB, Walton BJ, Reed TH, Coyle MB, White WJ, Amyx HL. Hyperkeratosis in athymic nude mice caused by a coryneform bacterium: Microbiology, transmission, clinical signs, and pathology. 1995. Lab. Anim. Sci. 45:131-139
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, and Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine . 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Fox J, Barthold S, Davisson M, Newcomer C, Quimby F, and Smith A, editors. The Mouse in Biomedical Research: Diseases . 2nd ed. New York: Academic Press; 2007. 756 pp.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . Ames: lowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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